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9.162019
認知症など意思能力のない相続人がいる場合の相続

高齢化の進展に伴い、認知症患者の増加が社会問題となっています。
2012年における認知症の有病者数462万人(筑波大学の研究)から推計すると、2025年の認知症有病者数は「約700万人」。これは「65歳以上高齢者の約5人に1人が認知症」の到来を意味します。
益々寿命が延びる社会とあっては、他人ごとではすまされない現実です。
2019年現在、国は遺言書を普及させるため、自筆証書遺言を更に便利に作成できるように民法改正を行いました。遺言書がないと、認知症の相続人がいる場合の相続が大変面倒になるという背景があるからといっても過言ではないほど、認知症は社会に大きな影響を与えています。
認知症等によって意思表示をすることができない相続人がいる場合、遺産分割協議ができない
認知症や精神障害等、意思表示ができない相続人がいる場合、そのままでは遺産分割協議はできないため、成年後見人を立てて遺産分割協議を行う必要があります。
成年後見とは、家庭裁判所に申立てをし選任されるもので、判断能力を失った人の預貯金を管理したり、不動産を処分したりできる「被成年後見人の財産を守るため」の制度です。
遺産分割協議をするために成年後見を申し立てをする場合、遺産分割に関係のない方に成年後見人になってもらうか、専門職後見人(司法書士・行政書士・弁護士・社会福祉士など)が選ばれることになります。
仮に、被相続人の配偶者が認知症でお子さんが成年後見人になるようなことがあっても、遺産分割の当事者となるため、利益相反の関係により代理人として遺産分割をすることができません。
また、成年後見人は裁判所が選ぶものなので、いくら身内の成年後見人を申し立てしたとしても、専門職後見人が選任される場合が多いのが現状です。申し立てをした以上、希望の成年後見人が選ばれなかったからといって、申し立てを取り下げることはできませんし、
一度、成年後見制度を利用すると、相当のことがない限り辞めることができないため、毎年成年後見人への報酬もかかることになってしまったり、例え、認知症の親のためになることであったとしてもお子さんは自由に財産を管理・処分・利用(不動産の建替えなど)をすることができなくなってしまいます。
成年後見制度を利用しないなら、法定相続という手段もあるが…
例えば、被相続人には認知症の妻とその子どもが一人、不動産が3000万、現金が1000万というケースがあるとします。関係は良好で、子どもは認知症の母親の面倒を見るつもりでいます。
上記のように成年後見制度を利用しなければ遺産分割協議はできませんが、遺産分割協議は必ず行わなければならないものではなく、法定相続による相続手続きを進めることもできます。
この場合、不動産は妻と子で共有、現金は500万づつということになります。妻と子の関係が良好ならば、法定相続分通りの相続でも問題はあまりないかもしれません。
そうはいっても、やはり認知症や精神障害、知的障害など意思能力のない相続人がいる場合は、やはり遺言書を作成した方が望ましいものです。というのは、法定相続には、次のようなデメリットがあるからです。
①相続税対策ができない
通常、相続税が発生するような場合、税理士にアドバイスいただき、なるべく税金がかからないような遺産分割協議書を作成することするになります。この相続税対策ができないため、遺産分割よりも高い税金を支払わなければいけないことになります。
②不動産が共有になり売却が難しくなる
複雑な権利関係を避けるために、一般的に不動産はなるべく共有状態にすべきではないとされます。通常、遺産分割協議の結果、相続人のひとりが不動産の登記名義を単独取得しますが、遺産分割ができない場合、法定相続分の割合で共有となるのです。例えば、不動産を売却して認知症の母親を老人ホームなどに入れたい場合、共有の不動産は意思能力がないと売却できないので、結局は成年後見制度を利用することになります。
成年後見人制度を利用は慎重に
成年後見制度は、認知症等意思能力のない方の財産を守るために有効で有意義な制度です。
後見人に託すことで、意思能力を示すことのできない方の大切な財産を法的に守ることができるため、ご本人のためを思って成年後見制度を考えているなら、相続を機会に検討してみてもいいかもしれません。
ですが、遺産分割をしたいがために成年後見制度を使うことには慎重になるべきです。
前述しましたが、身内が成年後見人になれたとしても、基本的に本人が亡くなるまで一生涯その方の財産を管理し続けなければならず、毎年、裁判所に対して複雑で煩わしい財産報告に関わる事務手続きが発生します。どんなに多忙でも、報告が面倒だからといって辞めることはできないのです。
また、弁護士等の専門職後見人が付いた選任された場合には、本人が亡くなるまで毎月数万円の報酬を払い続けなければいけなりません。寿命が90歳、100歳まで伸びていく中、医療費や施設入居費等これからどのくらいお金が必要かわからないというのに、専門職後見人への出費は痛いものとなるご家庭もあるでしょう。
相続発生にあたり、安易に成年後見をつけようとせず、将来のこともしっかりと考えて慎重な判断をしていくべきです。
▶成年後見制度に関する記事はこちら
遺言書の作成、認知症の方がいる相続手続きの相談は高田馬場のひろせゆき行政書士事務所まで
このように、認知症や精神障害者、知的障害者が相続人にいる場合(認知症のリスクがある方も含みます)、何よりも遺言書を作成することをお勧めします。
遺言書は、遺言者が意思能力がある間にしか作成できません。
残念ながら、現在の世界では認知症にならない薬は開発されておらず、誰しもが認知症になるリスクを抱えています。
「いつか」ではなく、元気で意思能力のある「今」、大切なご家族が相続で煩わしい思いをしないように、遺言書を作成しておくことが大事であることはご理解いただけたかと思います。
当事務所では、女性行政書士が、丁寧にお客様の遺言書の作成サポートを行います。
また、遺言書がない場合の遺産分割協議書作成サポートを含めた相続手続きの業務も行っております。
まずはお気軽にお問合せください。